目次
1.相続税申告の流れ
相続税申告は、大きく①事実関係の調査、②財産評価、③相続税の計算、④申告・納付という流れで行います。

当サイトの内容は、基本的に上記の「財産評価」のうち「土地評価」に限定したものとなります。実際の相続税申告では、土地評価以外の財産の評価や相続税申告の仕方や相続手続きの方法、相続税法、民法、会社法、法人税法、所得税法等の様々な法律の理解も必要となります。
2.相続財産の評価方法

(1) 相続財産の評価方法の基本
相続税の課税対象となる相続財産の評価は、相続税法の第22条から第26条にその財産の種類に応じた評価方法が規定されています。
- (2)~(5)以外の財産(22条)
- 地上権及び永小作権(23条)
- 配偶者居住権等(23条の2)
- 定期預金に関する権利等(24条・第25条)
- 立木(26条)
上記の通り、ほとんどの財産が法22条による評価方法に依拠するわけですが、法22条においても「当該財産の取得の時における時価による」とするのみで、その具体的な評価方法を明示していません。
(評価の原則)
相続税法|e-Gov
第22条
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
そこで、昭和39年4月25日付け通達「財産評価基本通達」に従い、法令に別段の定めのあるもの及び別に通達するものを除き、相続、遺贈又は贈与により取得した財産については、同通達により評価することとなります。
(2) 時価の意義
時価の意義については、財産評価基本通達の第1項において次の通り定義されています。したがって、相続税の課税対象となる相続財産の課税価格は、財産評価基本通達により評価した価額によることになります。
財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。
評価の原則 – 時価の意義|国税庁HP
(3) 財産評価基本通達の例外
ただし、画一的な評価方法である財産評価基本通達により評価をすると、その課税価格が著しく不適当となることもあり得ます。
そのような場合も考慮して、財産評価基本通達第6項「この通達の定めにより難い場合の評価」を根拠として他の評価方法による評価も例外的に認めています。
(この通達の定めにより難い場合の評価)
財産評価基本通達|国税庁HP
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
3.相続税における土地評価の考え方

(1) 原則
前述の通り、相続税の財産評価は原則として財産評価基本通達による評価を前提としていますので、土地評価の場合も、原則として、財産評価基本通達に従い評価します。
(2) 例外
ただし、個別性の強い土地については、財産評価基本通達⑥を根拠として、次のような価格も財産の評価額として採用され得ります。
- 不動産鑑定評価額
- 相続開始後に売却した成約価格
- 相続開始前に取得した購入価格
当然ですが、例外的な評価は、納税者有利の場合もあれば、納税者不利の場合もあります。
(3) 国税不服新番所・裁判所における取り扱い
TAINSに掲載されている不動産鑑定評価を利用した過去の国税不服審判所における裁決事例や裁判所における判例の結果を統計的に見ると、次のようになります。
種類 | 裁決・ 判決数 | 全部 取消し数 | 一部 取消し数 | 棄却数 | 納税者 有利の割合 |
---|---|---|---|---|---|
国税不服審判所 | 108 | 2 | 28 | 78 | 27.8% |
地方裁判所 | 42 | 2 | 4 | 36 | 14.3% |
高等裁判所 | 23 | 1 | 2 | 20 | 13.0% |
最高裁判所 | 8 | 0 | 0 | 8 | 0.0% |
上記の通り、納税者有利の裁決・判決の割合は、国税不服審判所では30%弱、裁判所では15%弱となっており、また、不服審判所→地裁→高裁→最高裁と上がるにつれ納税者有利の結果となる確率は低くなることが分かります。
期間 | 国税不服審判所 | 地方裁判所 | 高等裁判所 |
---|---|---|---|
平成元年~平成10年 | 44% | 0% | 0% |
平成11年~平成20年 | 32% | 18% | 15% |
平成21年~平成30年 | 26% | 13% | 13% |
また、時系列で見ると、バブル崩壊により土地の時価が大きく下落し、財産評価基本通達による評価と時価とが大きく乖離していたような平成初期の頃は国税不服審判所における不動産鑑定評価額の採用事例が多く見られました。
しかしながら、時を経るごとに納税者有利の結果となることが少なくなってきており、公開裁決事例における納税者の有利の裁決割合は直近5年で言えば約9.4%と、10%を切っています。
(4) 不動産鑑定評価の利用価値
上記の通り、平成初期の頃は不動産鑑定評価を利用した相続税申告が認められる傾向にありましたが、現在は不動産鑑定評価を認めることは相対的に少なくなってきています。
この理由を細かく分析してみると、大きく次の2つにまとめることができます。
- みだりに不動産鑑定評価を採用すると、結果として課税の公平性を害する。
- 不動産鑑定評価の方法に恣意性があり、合理性・客観性が無く、鑑定評価額の信頼性が低い。
① 課税の公平性を害する
相続税の財産評価を財産評価基本通達に従い評価をする趣旨は、主として「計算の容易性」と「課税の公平性」にあります。
- 計算の容易性
計算の容易性とは、誰でも容易に計算をすることができ、また、チェックも容易にできる、ということです。
相続税の申告を10ヶ月以内に自主申告することを前提としていることからも、複雑すぎる計算方法では納税義務者にとって酷です。また、チェックする側(税務署)にとっても複雑な計算や納税者が個々に独自の計算をしたものをチェックするのでは事務負担が膨大となり過ぎます。 - 課税の公平性
課税の公平性とは、納税義務者間で課税が不公平にならないようにすることです。
納税者ごとに評価のやり方が違うと、時価を正しく示すこともありますが、一方で評価人によって価額が異なることとなるため、結果として納税義務者間の課税の公平性が保たれません。したがって、財産評価基本通達が時価と多少乖離したとしても、一定の妥当性があるとすれば、課税の公平性の見地から財産評価基本通達により評価する必要があるということになります。
不動産鑑定評価を利用した申告を当然のように認めてしまうと、不動産鑑定評価を利用した人とそうでない人との間で課税の公平性が保てないこととなります。
そのため、財産評価基本通達では、通達によると著しく不適当と認められる場合を除き、原則として財産評価基本通達により評価をすることとしており、したがって、不動産鑑定評価を利用した評価は認められにくいということになります。
② 鑑定評価額の信頼性が低い
国税不服審判所や裁判所で否認をされた不動産鑑定評価書の内容を細かく見ていくと、合理性の無いものが多く見られます。例えば宅地の評価であるにも関わらず、周辺の宅地見込地の取引データを利用していたりと、素人目に見てもおかしな評価をしていると判断できるものが多々あります。
過去の裁決・裁判では、不動産鑑定評価の妥当性、合理性、実証性、説明力などを求めており、これらが必要十分であれば違う結果になった可能性もあると考えることもできるような事例もあります。