法人から個人への不動産譲渡に係る課税関係

2021年8月1日
阿部 博行

阿部 博行

税理士・不動産鑑定士・行政書士・FP1級技能士・応用情報技術者

不動産オーナーに特化した資産税のスペシャリストです。大手不動産鑑定士事務所と大手資産税税理士事務所において約15年の経験を有する私が最初から最後までしっかりとご対応させて頂きます。

法人から個人への不動産譲渡に係る課税関係

法人が個人に対して不動産を譲渡した場合は、時価取引を前提とした課税処理をすることとなり、譲渡対価が時価と異なる場合には、それぞれ異なる課税処理をします。

ここでは、法人が個人に対して不動産を譲渡した場合の課税理論上の考え方を次の4つのケースにつき説明します。

取引行為譲渡対価法人(譲渡人)個人(譲受人)
無償譲渡無し譲渡損益 + 役員報酬・給料賃金/寄付金給与所得/一時所得
低額譲渡時価未満譲渡損益 + 役員報酬・給料賃金/寄付金給与所得/一時所得
時価譲渡時価と同額譲渡損益
高額譲渡時価超譲渡損益 + 受贈益
法人から個人への不動産譲渡に係る課税関係
阿部博行

同族会社からその会社オーナーやその一族に対する不動産譲渡では「適正時価」の把握が重要です。無用な課税を防ぐためには不動産鑑定評価書の活用が非常に有効です。

相続タックス総合事務所(200)

相続タックス総合事務所は、不動産オーナー様に特化した税理士・不動産鑑定士・行政書士事務所・不動産販売の総合事務所です。

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1.無償譲渡の場合

法人から個人への不動産を無償で譲渡した場合
法人から個人への不動産を無償で譲渡した場合

法人が個人に対して不動産を無償で譲渡した場合は、法人については個人に対して不動産を適正時価で譲渡したものとして取り扱うとともに、適正時価に相当する金額を個人に対して寄付(贈与)したものとして取り扱います。また、個人については会社から贈与を受けたものとして取り扱います。

ただし、法人と個人との関係性に応じて、法人については費用の科目が、個人については所得の種類が異なることとなります。

内容法人(譲渡人)個人(譲受人)
課税関係譲渡損益
役員報酬・給料賃金
給与所得
取得価額適正時価
取得日取得日
会社の役員・従業員の場合
内容法人(譲渡人)個人(譲受人)
課税関係譲渡損益
寄付金
一時所得
取得価額適正時価
取得日取得日
特別の関係が無い場合

(1) 譲渡人の課税関係

法人が個人に無償譲渡した場合の譲渡と寄付(給与)の2段階取引
法人が個人に無償譲渡した場合の譲渡と寄付(給与)の2段階取引

法人が個人に対して不動産を無償で譲渡した場合は、次の通り2段階で考えます。

① 土地売却益の認識

法人が個人に対して不動産を無償で譲渡した場合は、当該不動産を時価で譲渡したものとみなして、土地売上高を益金算入します(法法22②・法法22の2④)。また、土地の帳簿価額相当額を損金処理します。

現金預金3,500万円土地売上益金2,500万円
土地取得費損金1,000万円土地1,000万円
譲渡費用損金10万円現金預金10万円
土地を無償譲渡したことによる譲渡人の仕訳

第22条
 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。

第22条の2 
 内国法人の各事業年度の資産の販売等に係る収益の額として第1項又は第2項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とする。

法人税法|e-Gov

② 寄付した現預金の損金処理

ただし、実際には現金預金の授受はありませんので、その受け取ったものと擬制した現金預金をそのまま譲受人である個人に対して寄付したものとして処理します。

この時、譲渡人である法人と譲受人である個人との関係性に応じて次の通り費用科目が異なります。

  • 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    法人と個人との間に特殊な関係が無い場合は、寄付金として費用処理します。
    ただし、当該寄付金のうち法人税法上の損金として認められる金額は、一般寄付金の損金算入限度額までとなります。(資本金1,000万円、寄付金控除前の所得が1,000万円の法人の場合、その事業年度の一般寄付金の損金算入限度額は約7万円となります。)

    (仕訳)  寄付金 3,500万円  /  現金預金 3,500万円
  • 個人が法人の役員である場合
    譲受人が法人の役員である場合は、役員報酬として費用処理します。
    ただし、当該役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与のいずれにも該当しませんので、法人税法上はその全額が損金不算入となります。

    (仕訳)  役員報酬 3,500万円  /  現金預金 3,500万円
  • 個人が法人の従業員である場合
    譲受人が法人の従業員である場合は、給料賃金として費用処理します。
    この場合、原則として、その費用処理された給料賃金の全額が法人税法上の損金に算入されます。

    (仕訳)  給料賃金 3,500万円  /  現金預金 3,500万円

(2) 譲受人の課税関係

譲受人である個人については、その不動産を法人から贈与により取得したものとして所得税の計算を行いますが、その法人と個人の関係性に応じて次の通り所得の種類が異なります。

  • 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    一時所得」として所得計算を行います。
  • 個人が法人の従業員又は役員である場合
    給与所得」として所得計算を行います。

なお、法人からの贈与は、原則として贈与税の課税対象とはなりません。したがって、不動産の所得金額は、財産評価基本通達による評価額ではなく、「適正時価」によりますので注意します。

(3) 設例による解説

【設例】
 A社(法人)はBさん(個人)に対して次の通り、所有する不動産を無償で譲渡した。

  • 売主(A)の取得価額・・・1,000万円
  • 時価(適正時価)・・・3,500万円
  • 財産評価基本通達による評価額・・・2,800万円
  • 取引価格・・・0円
  • 譲渡費用・・・10万円
  • 取得費用・・・100万円
法人から個人への不動産を無償で譲渡した場合の例
法人から個人への不動産を無償で譲渡した場合の例

譲渡人(A)

  1. 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    益金:3,500万円
    損金:10万円(譲渡費用)+約7万円(資本金等1千万円、控除前所得1千万円の法人の一般寄付金の損金算入限度額)
  2. 個人が法人の役員である場合
    益金:3,500万円
    損金:10万円
  3. 個人が法人の従業員である場合
    益金:3,500万円
    損金:3,500万円+10万円=3,510万円

譲受人(B)

  1. 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    所得の種類:一時所得
    所得の金額:3,500万円
  2. 個人が法人の役員又は従業員である場合
    所得の種類:給与所得
    所得の金額:3,500万円

2.低額譲渡の場合

法人から個人へ不動産を低額譲渡した場合
法人から個人へ不動産を低額譲渡した場合

法人が個人に対して不動産を時価に満たない金額で低額譲渡した場合の取り扱いは、無償譲渡の場合と考え方は基本的に同じです。

内容法人(譲渡人)個人(譲受人)
課税関係譲渡損益
役員報酬・給料賃金
給与所得
取得価額適正時価
取得日取得日
会社の役員・従業員の場合
内容法人(譲渡人)個人(譲受人)
課税関係譲渡損益
寄付金
一時所得
取得価額適正時価
取得日取得日
特別の関係が無い場合

(1) 譲渡人の課税関係

法人が個人に低額譲渡した場合の譲渡と寄付(給与)の2段階取引
法人が個人に低額譲渡した場合の譲渡と寄付(給与)の2段階取引

法人が個人に対して不動産を低額譲渡した場合は、次の通り2段階で考えます。

① 土地売却益の益金算入

法人が個人に対して不動産を低額譲渡した場合は、当該不動産を時価で譲渡したものとみなして、土地売上高を益金算入します(法法22の2④)。また、土地の帳簿価額相当額を損金処理します。

現金預金5,000万円土地売上益金5,000万円
土地取得費損金1,000万円土地1,000万円
譲渡費用損金50万円現金預金50万円
土地を低額譲渡したことによる譲渡人の仕訳

第22条の2 
 内国法人の各事業年度の資産の販売等に係る収益の額として第1項又は第2項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とする。

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② 寄付した現預金の損金処理

ただし、実際には時価と譲渡対価との差額に相当する現金預金の授受はありませんので、その受け取ったものと擬制した現金預金をそのまま譲受人である個人に対して寄付したものとして処理します。

この時、譲渡人である法人と譲受人である個人との関係性に応じて次の通り費用科目が異なります。

  • 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    法人と個人との間に特殊な関係が無い場合は、寄付金として費用処理します。
    ただし、当該寄付金のうち法人税法上の損金として認められる金額は、一般寄付金の損金算入限度額までとなります。(資本金1,000万円、寄付金控除前の所得が1,000万円の法人の場合、その事業年度の一般寄付金の損金算入限度額は約7万円となります。)

    (仕訳)  寄付金 4,000万円  /  現金預金 4,000万円
  • 個人が法人の役員である場合
    譲受人が法人の役員である場合は、役員報酬として費用処理します。
    ただし、当該役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与のいずれにも該当しませんので、法人税法上はその全額が損金不算入となります。

    (仕訳)  役員報酬 4,000万円  /  現金預金 4,000万円
  • 個人が法人の従業員である場合
    譲受人が法人の従業員である場合は、給料賃金として費用処理します。
    この場合、原則として、その費用処理された給料賃金の全額が法人税法上の損金に算入されます。

    (仕訳)  給料賃金 4,000万円  /  現金預金 4,000万円

(2) 譲受人の課税関係

譲受人である個人については、その譲り受けた不動産を適正時価により取得したものとして取り扱うとともに、時価と支払対価との差額に相当する金額は、法人より贈与を受けたものとして所得税の計算を行います。

  • 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    一時所得」として所得計算を行います。
  • 個人が法人の従業員又は役員である場合
    給与所得」として所得計算を行います。

なお、法人からの贈与は、原則として贈与税の課税対象とはなりません。

(3) 設例による解説

【設例】A社(法人)はBさん(個人)に対して、所有する不動産を低額譲渡した。

  • 売主(A)の取得価額・・・1,000万円
  • 時価(適正時価)・・・5,000万円
  • 取引価格・・・1,000円
  • 譲渡費用・・・50万円
  • 取得費用・・・150万円
  • 財産評価基本通達による価格・・・4,000万円
法人から個人へ不動産を低額譲渡した場合の例
法人から個人へ不動産を低額譲渡した場合の例

譲渡人(A)

  1. 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    益金:5,000万円
    損金:1,000万円+50万円+約7万円(資本金等1千万円、控除前所得1千万円の法人の一般寄付金の損金算入限度額)
  2. 個人が法人の役員である場合
    益金:5,000万円
    損金:1,000万円+50万円=1,050万円
  3. 個人が法人の従業員である場合
    益金:5,000万円
    損金:1,000万円+4,000万円+50万円=5,050万円

譲受人(B)

  1. 個人が法人の従業員又は役員ではない場合
    所得の種類:一時所得
    所得の金額:4,000万円
  2. 個人が法人の役員又は従業員である場合
    所得の種類:給与所得
    所得の金額:4,000万円

3.時価譲渡の場合

法人が個人へ不動産を時価で譲渡した場合
法人が個人へ不動産を時価で譲渡した場合

法人が個人に対して不動産を時価で譲渡した場合は、通常の売買取引となります。

内容譲渡人(売主)譲受人(買主)
取引行為の種類売買売買
課税関係法人税
取得価額取引価格
取得日取引日
時価譲渡の場合の課税関係・取得価額

(1) 譲渡人の課税関係

譲渡人については、取引価格を益金算入し、その不動産の帳簿価額を損金算入します。

現金預金5,000万円土地売上益金5,000万円
土地取得費損金1,000万円土地1,000万円
譲渡費用損金150万円現金預金150万円
時価譲渡したことによる譲渡人の仕訳

(2) 譲受人の課税関係

譲受人については課税関係はありません。

(3) 設例による解説

【設例】A社(法人)はBさん(個人)に対して、次の通り自己が所有する不動産を時価で譲渡した。

  • 売主(A)の取得価額・・・1,000万円
  • 時価(適正時価)・・・5,000万円
  • 譲渡対価(取引価格)・・・5,000円
  • 譲渡費用・・・150万円
  • 取得費用・・・300万円
法人が個人へ不動産を時価で譲渡した場合の例
法人が個人へ不動産を時価で譲渡した場合の例
  1. 譲渡人(A)
    益金:5,000万円
    損金:1,000万円+150万円=1,150万円
  2. 譲受人(B)
    課税関係なし
    取得価額:5,000万円+300万円=5,300万円

4.高額譲渡(時価超)の場合

法人が個人に不動産を時価を超える金額で譲渡した場合
法人が個人に不動産を時価を超える金額で譲渡した場合

法人が個人に対して不動産を時価よりも高い価額で譲渡した場合は、譲渡側では①土地の売却損益の把握、②時価を超える金額の受贈、③既存株主の特別の利益の受贈の3つの課税関係を考えます。

また、譲受人である個人については、①適正時価により不動産を取得したものとして取り扱うとともに、②支払対価と適正時価との差額は法人に対して寄付したものとして取り扱います。

内容法人の既存株主譲渡人(法人)譲受人(個人)
取引行為の種類特別の利益の受贈売買売買+寄付
課税関係贈与税法人税
取得価額時価
取得日取引日
高額譲渡の場合の課税関係・取得価額

(1) 譲渡人の課税関係

法人が個人に対して高額譲渡をした場合の課税関係
法人が個人に対して高額譲渡をした場合の課税関係

法人が個人に対して不動産を高額譲渡した場合の課税関係は、次の通り3つに分けて考えます。

  1. 法人:土地の売却による売却損益の把握(法人税)
  2. 法人:時価を超える金額を受贈したことよる受贈益の把握(法人税)
  3. 法人の既存株主:無償で資本金に相当する金額が増加したことによる受贈益の把握(贈与税)

① 法人:土地の売却による売却損益の把握(法人税)

法人が個人に対して高額譲渡をした場合の譲渡損益の把握
法人が個人に対して高額譲渡をした場合の譲渡損益の把握

まず、譲渡人である法人は、個人に対して不動産を「適正時価」により譲渡したものとして譲渡損益を把握します。

現金預金5,000万円土地売上益金5,000万円
土地取得費損金4,000万円土地4,000万円
譲渡費用損金250万円現金預金250万円
譲渡法人の譲渡損益の把握の仕訳

② 法人:時価を超える金額を受贈したことよる受贈益の把握(法人税)

法人が個人に対して高額譲渡をした場合の受贈益の把握
法人が個人に対して高額譲渡をした場合の受贈益の把握

次に、実際には適正時価よりも多くの現金預金(又は未収金)を受領していますので、時価を超えて受け取った金額を受贈益として益金算入します。

現金預金3,000万円受贈益益金3,000万円
譲渡法人の受贈益の把握の仕訳

③ 法人の既存株主:無償で資本金に相当する金額が増加したことによる受贈益の把握(贈与税)

高額譲渡により資本金が増加したことによる、受贈者から既存株主への実質的贈与
高額譲渡により資本金が増加したことによる、受贈者から既存株主への実質的贈与

さらに、支払対価のうち、適正時価を超える部分の金額は、譲渡法人の資本金の額が増加することで、間接的に既存株主が譲受人である個人から「資本金の額の増加」という特別の経済的利益を受贈することになり、既存株主については贈与税が課されます(相法9)

第9条 第5条から前条まで及び次節に規定する場合を除くほか、対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。ただし、当該行為が、当該利益を受ける者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、その者の扶養義務者から当該債務の弁済に充てるためになされたものであるときは、その贈与又は遺贈により取得したものとみなされた金額のうちその債務を弁済することが困難である部分の金額については、この限りでない。

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※ 譲渡法人が一定の社団等である場合

上記の取り扱いは、譲渡法人が「一般法人」である場合の取り扱いですが、譲渡法人が相続税法第66条第1項に規定する「一定の社団等」に該当する場合には、次の3段階の課税関係を考えることとなります。

  1. 法人:土地の売却による売却損益の把握(法人税)
  2. 法人:時価を超える金額を受贈したことよる受贈益の把握(法人税
  3. 法人:時価を超える金額を受贈したことよる受贈益の把握(贈与税

これは、相続税法において、財産の贈与を受けた法人が一定の社団等に該当する場合には、当該社団等を「個人」とみなした上で、当該一定の社団等に対して贈与税を課することとなっているためです。

この場合、支払対価のうち時価を超える部分に対して法人税と贈与税の二重課税を課すととなってしまうため、贈与税額の計算において、当該社団等に課されるべき法人税等相当額を贈与税額から控除することができます(相続税法第66条第5項)。ただし、控除可能な法人税等相当額は贈与税額が限度となります。

(人格のない社団又は財団等に対する課税)
第66条 代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団に対し財産の贈与又は遺贈があった場合においては、当該社団又は財団を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する。この場合においては、贈与により取得した財産について、当該贈与をした者の異なるごとに、当該贈与をした者の各一人のみから財産を取得したものとみなして算出した場合の贈与税額の合計額をもって当該社団又は財団の納付すべき贈与税額とする。
 前項の規定は、同項に規定する社団又は財団を設立するために財産の提供があった場合について準用する。
 前二項の場合において、第一条の三又は第一条の四の規定の適用については、第一項に規定する社団又は財団の住所は、その主たる営業所又は事務所の所在地にあるものとみなす。
 前3項の規定は、持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があった場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と第64条第1項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについて準用する。

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(2) 譲受人の課税関係

譲受人である個人については、不動産を適正時価により取得したものとして取り扱い、取得価格(時価)と譲渡対価との差額部分は、その法人に対して寄付したものとして取り扱います。

したがって、譲受人である個人については課税関係はありません。

(3) 設例による解説

【設例】A社(法人)はBさん(個人)に対して、所有する不動産を高額譲渡した。

  • 売主(A)の取得価額・・・1,000万円
  • 時価(適正時価)・・・5,000万円
  • 取引価格・・・8,000円
  • 譲渡費用・・・250万円
  • 取得費用・・・350万円
法人が個人に不動産を時価を超える金額で譲渡した場合の例
法人が個人に不動産を時価を超える金額で譲渡した場合の例

譲渡人(A)

  1. 一般の法人である場合
    イ)法人に対する課税関係(法人税)
     益金:5,000万円(土地売上)+3,000万円(受贈益)
     損金:1,000万円(取得費)+250万円(譲渡費用)
    ロ)既存株主に対する課税関係(贈与税)
     特別の利益×贈与税率
  2. 一定の社団等である場合
    イ)一定の社団等に対する法人税
     益金:5,000万円(土地売上)+3,000万円(受贈益)
     損金:1,000万円(取得費)+250万円(譲渡費用)
    ハ)一定の社団等に対する贈与税
     (3,000万円 – 110万円)× 50% – 250万円 = 1,195万円
     1,195万円 – 1,110万円 = 85万円
     ※1,195万円 > 3,000万円×37%=1,110万円 ∴1,110万円

譲受人(B)

  • 課税関係無し
  • 取得価格:5,000万円+350万円=5,350万円

まとめ

以上の取り扱いが法人から個人に対して不動産を譲渡した場合の税法理論上の取り扱いとなります。

一般に、利益相反の関係にある第三者間取引では、取引価格が時価される価格(公示価格や固定資産税評価額など)と異なる場合であっても、すぐさま贈与税などの課税上の問題となることはありません。

問題はとなるのは、譲渡人である法人と譲受人である個人との関係が、同族会社とそのオーナーなどのように特殊な関係にある場合です。このような関係にある者の取引では経済合理性に反するような取引が行われることも多く、不動産取引を利用した贈与税や相続税等の租税回避が行われる余地があるため、税務当局も厳しくチェックをしてきます。

したがって、特殊関係者間の不動産取引では、不動産の適正時価や不動産に税務に専門家と相談することをおすすめします。

相続タックス総合事務所の代表は、大手資産税税理士事務所と大手不動産鑑定会社の両方で、計15年の経験を積んだ、この業界でも珍しい税務と鑑定評価の両方の実務経験がある税理士・不動産鑑定士です。

売却不動産の取得費が不明な場合、不動産の収益力の向上・改善、節税対策、事業承継対策、遺留分対策など、不動産に関する様々なアドバイスをすることができます。