目次
1.土地の時価
土地の時価とは、ある時点における土地の適正な価格をいいます。
(1) 土地の時価の種類

一般に土地の時価として認識されているものには、次の6つの価格(価額)があります。
- 実際の取引価格
実際の売買価格、成約価格、売買実例価格など - 市場価格(マーケット相場)
不動産市場における売買相場、インデックス価格、募集価格など - 不動産鑑定評価額
不動産鑑定士が不動産鑑定評価書により報告する不動産の価格 - 公示価格・標準価格(公示価格等)
国・都道府県がその年の1月1日又は7月1日におけるその地域の標準的な宅地の時価として定めた価格(公示価格・標準価格) - 固定資産税評価額
固定資産税評価基準に従い、固定資産税・都市計画税の計算の元となる土地の価格 - 相続税評価額
財産評価基本通達に従い、相続税の計算の元となる土地の価格
(2) 価格間の関連性
上記6つの価格はそれぞれ別個独立しているものではなく、それぞれの価格間に一定の関連性があります。
- 実際の取引価格 と 市場価格
実際の取引価格には個別的な事情が介在しているため、非常に高いものもあれば、非常に安いものもあります。これらの実際の取引価格を基に、統計的なインデックス価格や不動産仲介業者の感覚的な相場が形成されます。 - 実際の取引価格・市場価格 と 公示価格等
実際の取引価格及び市場価格を基に、不動産鑑定士の鑑定評価額を標準として公示価格等が決定されます。 - 公示価格等 と 固定資産税評価額or相続税評価額
公示価格等の概ね7割または8割程度の価格となるように固定資産税評価額または相続税評価額が決定されます。
(3) 価格の種類に応じた適正時価との関係
一般に「公示価格=時価」とされていますが、経験上、都心部の公示価格等は市場価格よりも低く、逆に地方の公示価格等は市場価格よりも高く設定されている傾向にあります。

地方では、歳入に占める固定資産税の税収割合(3割~5割)が大きいため、固定資産税の減収につながる公示価格や地価調査の価格を下げることに対して非常に消極的です。地価公示や地価調査の価格を下げると、地価公示や地価調査の価格だけでなく、地価公示や地価調査の周辺の標準宅地の評価額も下げることになるので、地域全体の固定資産税路線価が下がり、結果として固定資産税による税収が大きく減るという構図にあるためです。
不動産鑑定士にとっても、3年に1度の評価替えの時期の固定資産税の標準宅地の評価業務は、数百万円~数千万円の大きな仕事のため、市町村に逆らってあえて適正時価を算出しようとする人は現実としていません。地価公示や地価調査の価格を設定するときも、市町村にお伺いを立ててから、公示価格等を決定するという地域すらあります。
このように、地方では、市町村と不動産鑑定士がある意味グルになっているため、公示価格や標準価格が下げ止まっている傾向にあり、そのあおりを受けて、相続税路線価も下げ止まり、結果として市場価格よりも高い相続税評価額の土地が生み出されるという現象が起きています。
(4) 相続税の財産評価における土地の時価
相続税の財産評価における土地の時価は、原則として、課税時期における財産評価基本通達に定める評価方法により評価した金額(相続税評価額)として定義されます。
ただし、財産評価基本通達による評価額を採用することにつき著しい不合理性・不適当性が認められる場合には、次の価格も相続税の財産評価における土地の時価として認められる余地があります。
- 不動産鑑定評価額
- 実際の取引価額
2.実際の取引価格

実際の取引価格とは、不動産市場において実際に取引された価格を指します。相続税の財産評価においても、実際の取引価格をもって評価し得る場合があります。
(1) 情報提供元・情報源
売買契約書
(2) 信頼度
実際の取引価格は、市場で現実に取引された価格であるため、一定の要件を満たす場合には相続税土地評価においても「時価」として取り扱うことが可能です。
地方では、年に数回程度しか不動産取引が行われていない地域もあり、中には1年に一度も取引が行われていないような地域もあります。このような地域では、財産評価基本通達による評価額が現実の不動産市場における時価と乖離している可能性があり、そのような場合には、実際の取引価格をもって土地評価額とすることが検討されます。
(3) 留意点
実際の取引価格には、取引当事者の特殊な関係性や個別的な事情の介在により適正時価とはいい難いものもあります。例えば、相続税の納税のために売り急いで売ったものや親族間で取引をしたものなどです。
特に、特殊関係者間の取引価格は、取引価格の水準はもちろんのこと、取引の経緯などからみて適正かつ合理的な取引でなければ、相続税申告における適正時価と認められる余地はありません。
3.市場価格(マーケット相場)

市場価格とは、マーケット相場のことです。過去の売買実例価格を分析して統計的な価格として表示されるインデックス価格や不動産仲介業者の間で認識される相場価格などがあります。
(1) 情報提供元・情報源
- 不動産会社からのヒアリング
- 市場調査会社が作成したマーケットレポート
- Web上に公表されている不動産インデックス
(2) 信頼度
不動産会社からのヒアリングやマーケットレポート、不動産インデックスは、実際の価格水準としては正しくとも、相続税財産評価における価格としては採用されることはありません。
4.不動産鑑定評価額

不動産鑑定評価額とは、不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に従い評価した不動産の価格をいいます。
(1) 情報提供元・情報源
不動産鑑定士から発行される不動産鑑定評価書
(2) 信頼度
不動産鑑定評価額は、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価に関する法律に基づき鑑定(評価)をしたその不動産の適正時価であり、一定の要件を満たす場合には相続税土地評価においても「時価」として認められます。
実際に売買をしていなくても適正時価を証明できるところにメリットがあります。
(3) 留意点
不動産鑑定評価額は、公的にも認められた信頼度の高い価格ですが、一方で、評価過程や評価方法に不合理性が認められたり、説明不十分な評価内容のある不動産鑑定評価額は税務当局より否認される傾向にあります。
5.公示価格等

公示価格とは、地価公示法に基づき、国が評価をしたその年1月1日における標準地の時価であり、標準価格とは、国土利用計画法施行令に基づき、都道府県が評価をしたその年の7月1日時点における基準地の時価です。
これらの公示価格等は不動産鑑定士による不動産鑑定評価額を基に決定されます。
(1) 情報提供元・情報源
(2) 信頼度
公示価格等は、各種の公的評価において「適正時価」として認められており、特段の事情がなければ公示価格や基準価格を時価でないものとして取り扱うことはできません。
相続税や固定資産税の財産評価においては、この公示価格等を基準として評価をすることとなっていますが、課税の安全性を考慮し、相続税評価においては公示価格等の8割相当額、固定資産税評価においては公示価格等の7割相当額となるように評価されます。
(3) 留意点
公示価格等はその年の価格という「点」としての性格だけではなく、過去の地価推移を表す「線」としての性格も有していることから、過去の公示価格等の水準等に引っ張られて評価されるという特徴があります。
このような事情に加え、固定資産税評価業務と不動産鑑定士との癒着という問題もあいまって、公示価格等が適正価格を表しているとは言い難いような価格も現実として存在しています。
6.固定資産税評価額・相続税評価額

固定資産税評価額は公示価格等の7割程度、相続税評価額は公示価格等の8割程度となるように定められます。
(1) 情報提供元・情報源
- 固定資産税評価額・・・課税明細書や固定資産評価証明書
- 相続税評価額・・・財産評価基準に従い納税者自身が自主計算
(2) 留意点
相続税財産評価においては、財産評価基本通達に従って評価された金額は、特段の事情の無い限り「時価」であるものとして取り扱われます。
一方、固定資産税評価額は、制度上も相続税評価額の0.7÷0.8=87.5%となるように評価されていることから、固定資産税評価額をもって相続税の財産評価上の時価として取り扱うことはできません。