目次
1.がけ地等を有する宅地の意義

(1) がけ地等の意義
がけ地等とは、地盤が傾斜し、あるいは階段状の形状をしているため、宅地としての利用が困難な部分をいいます。
(2) がけ地等を有する宅地の意義
がけ地等を有する宅地とは、平たん部分とがけ地部分等が一体となっている宅地であり、例えば、ヒナ段式に造成された住宅団地に見られるような、擁壁部分を有する宅地を言います。
なお、擁壁部分については、人工擁壁か自然擁壁かを問いません。

(3) がけ地等を有する宅地に補正が必要な理由
がけ地等を有する宅地については、がけ地等があることにより次のメリットとデメリットがあります。
① メリット
- 日照が良好になる
- 通風が良好になる
- 乾湿が良好になる
- 眺望が優れる
- プライバシーが保護される
- 希少価値が生じる
② デメリット
- がけ地部分につき建築が不可
- 擁壁の工事が必要となる
- 転落防止等のための工事が必要となる
- 危険土地のため需要が減少する
- がけ地の方位、配置によっては日照、通風、乾湿、眺望が悪化する
相続税の財産評価においては、デメリットとメリットを比較すると、総体的にデメリットの方が大きいため、がけ地等を有する宅地については、がけ地等があることによる減価を考慮することとしています。
ただし、がけ地等があることで上記のようなメリットも存在し、そのメリットががけ地等の方位によってその程度を異にすることから、がけ地補正率表では、がけ地等の方位に応じた補正率が設けられています。
2.がけ地等を有する宅地の価額

がけ地等があり通常の用途に供することができないと認められる部分を有する宅地の価額は、その宅地のうちに存するがけ地等が、がけ地等でないとした場合の価額にがけ地補正率を乗じて計算した価額によって評価します。
ただし、土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価をする場合は、この規定の適用はありませんので注意します。(セクション3を参照)
(1) がけ地補正率
がけ地補正率は、①がけ地の方位と②がけ地割合に応じた補正率を次のがけ地補正率表より参照して求めます。
がけ地の方位
がけ地割合 |
南 | 東 | 西 | 北 |
---|---|---|---|---|
10%以上 | 0.96 | 0.95 | 0.94 | 0.93 |
20%以上 | 0.92 | 0.91 | 0.90 | 0.88 |
30%以上 | 0.88 | 0.87 | 0.86 | 0.83 |
40%以上 | 0.85 | 0.84 | 0.82 | 0.78 |
50%以上 | 0.82 | 0.81 | 0.78 | 0.73 |
60%以上 | 0.79 | 0.77 | 0.74 | 0.68 |
70%以上 | 0.76 | 0.74 | 0.70 | 0.63 |
80%以上 | 0.73 | 0.70 | 0.66 | 0.58 |
90%以上 | 0.70 | 0.65 | 0.60 | 0.53 |
(2) がけ地割合
かげ地補正率表にある「かげ地割合」は、次の計算式により計算をして得た割合となります。
- 端数処理はしません。
(3) がけ地の方位
がけ地の方位は斜面の向きにより判定します。

上の図では、左の図の土地も、右の図の土地も、いずれも斜面は南側を向いています。したがって、両土地のがけ地の方位は「南」となります。
がけ地がある方の方位を取るわけではありませんので、注意します。
3.土砂災害特別警戒区域内にあるがけ地等の評価

評価対象地の全部又は一部が土砂災害特別警戒区域に指定されており、かつ、評価対象地のうちにがけ地等がある場合には、がけ地等の評価による補正は行わず、土砂災害特別警戒区域内にある宅地の評価により補正を行います。
4.がけ地等を有する宅地として評価をしない場合
がけ地補正率が適用されるがけ地等を有する宅地とは、前述の通り「平たん部分」と「がけ地部分等」が一体となっている宅地をいいます。

したがって、平たん部分である宅地とそれ以外の部分(山林、雑種地等)を別の評価単位として評価すべき場合の当該平坦部分の宅地の評価に当たっては、がけ地等補正を行いませんので注意します。
6.傾斜が複数の方位にある場合のがけ地の計算

(1) がけ地補正率の計算方法
がけ地のうち、傾斜部分が2方位以上ある場合におけるがけ地補正率は、次の手順により計算します。
- がけ地の方位は一旦無視し、評価対象地の総地積に対するがけ地部分の割合(がけ地割合)を計算します。
- 評価対象地のがけ地の各方位につき、①より求めたがけ地割合に基づき、各方位別のがけ地補正率をがけ地補正率表より参照します。
- ②より求めた各方位別のがけ地補正率に対し、全がけ地の地積に対する各方位別のがけ地の地積の割合で加重平均し、これらを合算することで、評価対象地のがけ地補正率を計算します。
(2) がけ地のある土地の計算例(複数方位の場合)
次の土地は、評価対象地が三大都市圏以外の地域に属し、普通住宅地区に所在する地積550㎡の土地の例です。敷地の南側に97.5㎡、西側に112.5㎡の傾斜地があります。なお、土砂災害警戒区域に指定されている箇所は無いものとします。

- 奥行価格補正後の評価対象地の路線価
正面路線価(20千円/㎡)× 奥行価格補正率(0.97)= 19,400円/㎡ - がけ地補正後の評価対象地の路線価
イ)がけ地補正率の査定
㋑がけ地割合
(97.5㎡+112.5㎡)÷550㎡=38.18%
㋺全てがけ地が南方であったとした場合のがけ地補正率
0.88
㋩全てがけ地が西方であったとした場合のがけ地補正率
0.86
㊁がけ地補正率
㋺(0.88)×97.5㎡÷210㎡※+㊁(0.86)×112.5㎡÷210㎡※
=0.86(小数点第2位未満切捨て)
ロ)①(19,400円/㎡)× イ(0.86)=16,684円/㎡ - 自用地としての価格
②(16,684円/㎡)× 550㎡ = 9,176,200円
- 97.5㎡+112.5㎡=210㎡
7.傾斜が東西南北の中間を向いている場合のがけ地の計算

(1) がけ地補正率の計算方法
北東・北西・南東・南西のように、東西南北の中間を向いているがけ地のがけ地補正率は、それぞれの方位のがけ地補正率の平均値を採用します。
(2) がけ地のある土地の計算例(中間方位)
次の土地は、評価対象地が三大都市圏以外の地域に属し、普通住宅地区に所在する場合の例です。敷地の南東側に斜面があり、がけ地の方位は南東向きです。なお、土砂災害警戒区域に指定されている箇所は無いものとします。

8.傾斜方位が北北東又は南南東等である場合のがけ地の計算

(1) がけ地補正率の計算方法
がけ地の方位が「北北東」や「南南東」のような方位の場合には、がけ地が次のいずれかの方位にあるものとしてがけ地補正率を計算します。(納税者有利)
- 最も近しい単純方位(東方・西方・南方・北方のいずれか)
- 厳密な方位
なお、財産評価基本通達におけるがけ地補正率は、がけ地の方位が南→東→西→北と向かうにつれ、その補正割合の値が小さくなる(減価率が強くなる)ため、上記①と②のうちがけ地補正率の値が小さくなるものを採用します。
例えば、がけ地割合が30%の場合のがけ地補正率は、0.88(南)>0.87(東)>0.86(西)>0.83(北)となります。
(2) がけ地のある土地の計算例(応用)
傾斜地が北北東を向いている場合
次の土地はがけ地の方位が北北東である地積240㎡の土地です。敷地のうち土砂災害警戒区域に該当する部分は無いものとします。

単純方位である「北方」のがけ地割合は「北北東方」のがけ地割合より小さいため、がけ地補正率の計算に当たっては、がけ地が北方を向いているものとして計算をします。
- 奥行価格補正後の評価対象地の路線価
正面路線価(54千円/㎡) × 奥行価格補正率(1.00) = 54千円/㎡ - がけ地補正後の評価対象地の路線価
イ)がけ地補正率の査定
㋑がけ地割合:48㎡÷240㎡=20%
㋺がけ地割合が20%である場合の北方のがけ地補正率 0.88
ロ)①(54千円/㎡) × イ(0.88) = 47,520円/㎡ - 自用地としての価格
②(47,520円/㎡) × 240㎡ = 11,404,800円
傾斜地が南南東を向いている場合
次の土地はがけ地の方位が南南東である地積240㎡の土地です。敷地のうち土砂災害警戒区域に該当する部分は無いものとします。

「南南東方」のがけ地割合は単純方位である「南方」のがけ地割合はより小さいため、がけ地補正率の計算に当たっては、がけ地が南南東方を向いているものとして計算をします。
参考
- 相続土地評価.com
- 国税局HP
- 基本通達:がけ地等を有する宅地の評価
- 質疑応答事例:がけ地等を有する宅地の評価
- 質疑応答事例:がけ地補正率を適用するがけ地等を有する宅地
- 質疑応答事例:―南東を向いている場合
- 質疑応答事例:―2方向にがけ地部分を有する場合